成年後見人として相続放棄を検討する場面では、どのような手続きを踏むべきか、誰に相談すればよいか、またその判断が正しいかどうか、不安になることがあるかもしれません。
また、手続きを間違えると被後見人(以下、本人)に不利益が生じるおそれもあるので、慎重になりすぎるケースもみられます。
この記事では成年後見人による相続放棄の基本的な手順から、見落としやすい注意点、手続きが難しい場合の対処法まで順を追って解説します。
相続放棄をする場面になっても不安なく行動できるよう、参考にしてみてください。
目次

成年後見人が相続放棄を進めるには、まず制度の仕組みと手続きの流れを正確に把握しておく必要があります。通常の相続放棄と異なり、成年後見人が手続きを行うので、代理権の範囲や裁判所への対応など確認事項が増えます。
順序を間違えると期限を過ぎたり、手続きが無効になったりするリスクも生じるため注意が必要です。また、相続放棄が本人にとって本当に利益になるのかという判断も、後見人が責任を持って行わなければなりません。
ここでは成年後見制度の概要を整理し、相続放棄の具体的な手続きの流れについて段階的に解説します。
成年後見制度は、認知症や知的障害などによって判断能力が不十分な方を法律的に支援するための仕組みです。本人の意思を尊重しながら、財産管理や身上監護(生活・療養・介護に関する手続き)を後見人が代理で行います。
主な後見人の種類は、家庭裁判所が選任する法定後見と本人があらかじめ選ぶ任意後見の2種類です。法定後見は、判断能力の程度に応じて後見・保佐・補助の3種類にわかれます。
成年後見人は、このうち判断能力がほとんどないと判断された方に選任され、包括的な代理権を持っているのが特徴です。また、民法858条では成年後見人に対して本人の意思を尊重し、心身の状態および生活の状況に配慮する義務を課しています。
相続放棄においても、本人の利益を優先して考えることが求められています。

成年後見人が本人を代理して相続放棄を行う場合、家庭裁判所への申述が必要です。裁判所の手続きは、以下の流れで進めましょう。まず、相続が発生したことを確認し、本人にとって相続放棄が利益になるかを判断します。
その後は、被相続人の最後の住所地を管轄している家庭裁判所へ相続放棄の申述書を提出する必要があります。費用は、申述人一人につき収入印紙800円と連絡用の郵便切手です。
必要書類は申述書のほか、被相続人の住民票除票または戸籍附票、申述人(本人)の戸籍謄本などです。続柄によって追加書類も異なるので、申述先の裁判所へ事前に確認しておきましょう。
申述書が受理されると、本人は相続人としての権利や義務を引き継がないことになります。
放棄の手続きでは、家庭裁判所とのやり取りが発生します。
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手続きの流れを理解したら、次は見落としやすい注意点も把握しておきましょう。成年後見人による相続放棄は、通常の相続放棄と比べて確認すべき事項があります。
一つのミスが、被後見人に取り返しのつかない不利益をもたらすリスクもあります。特に重要なのが、期限の問題です。相続放棄には、法律上の期限が存在します。
これを過ぎると、原則として放棄できなくなります。また、後見人と被後見人が利益相反の関係にある場合は、通常の手続きでは相続放棄を進められません。
こうしたリスクを防ぐためにも、3つの注意点について確認しておきましょう。
相続放棄の申述は、民法により自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内に行わなければなりません。
成年後見人の場合、本人が相続開始を知ったときではなく、法定代理人である後見人自身が知ったときから起算されます。相続の発生を把握した時点で、速やかに手続きを検討することが大切です。
3ヶ月以内に財産状況の調査が完了しない場合、家庭裁判所への申立てにより熟慮期間を延長することも可能です。しかし、この伸長の申立て自体も3ヶ月以内に行う必要があるので、注意しましょう。
成年後見人と本人が共同相続人になる場合など、両者の利害が対立する状況を利益相反といいます。典型的なのは後見人の親が亡くなり、後見人と本人が同じ遺産を相続するケースです。
民法860条では、後見監督人がいない場合、後見人に民法826条(利益相反行為)を準用しています。利益相反行為については、特別代理人を家庭裁判所に選任しなければならないと定めています。
後見人自身が相続放棄をすると、利益相反関係が解消される場合もありますが、状況によって対応が異なるのが事実です。利益相反に該当するかの判断は、行為を外側から判断する外形判断説が、判例上採用されています。
判断に迷う場合は、早めに専門家へ相談しましょう。

成年後見人は、相続放棄の手続きを行った後、家庭裁判所への報告義務があります。これは、後見人が定期的に財産状況や身上監護の状況を報告する義務があるからです。
これは、相続放棄のような重要な法律行為についても報告の対象です。報告の時期や方法は裁判所によって異なります。年1回の定期報告の際に記載するか、重要な行為が発生した時点で速やかに報告するのが一般的です。
報告を怠ると、後見人の解任事由になるケースもあるので、手続きの際は速やかに裁判所へ連絡しておきましょう。
このようなケースでは、報告漏れを防ぐためにも、裁判所やケースワーカーとの連絡が取れる環境を常に整えておきましょう。
報告の義務がある間は、連絡手段を切らせません。
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利益相反が生じたときや、手続き上の問題が発生したときでも、状況に応じた対処法が必要です。手続きが進められない状況に直面した場合、焦りや不安から判断を誤ってしまうこともあります。
しかし、対応できる選択肢を知っておけば、冷静に行動することが可能です。特に大切なのは、問題が生じた時点で早めに動くことです。
まずは一人で抱え込まず、状況を整理して対処することが、被後見人の利益を守ることにつながります。ここでは、代表的な2つの対処法について解説します。
後見監督人がおらず、後見人と本人が利益相反関係にある場合に可能なのは、家庭裁判所で特別代理人の選任を申し立てる方法です。特定の法律行為についてのみ、本人を代理する立場の人が特別代理人になります。
明文上の申立権者は、後見人です。しかし、状況によっては親族などの利害関係人にも申立権が認められています。特別代理人が選任されると、後見人は自身の相続人としての立場にとどまり、特別代理人が本人の代理人として手続きを進めることになります。
また後見人自身が相続放棄をすれば、利益相反関係が解消され、後見人が本人のために単独で相続放棄の申述を行うことも可能です。どちらの方法が適切かは状況によって異なるので、早めに専門家へ相談しましょう。
一度受理された相続放棄の撤回は、民法919条により原則として認められていません。そのため、やり直しは基本的にできないと理解しておく必要があります。
判断に迷う場合や財産調査が不十分な場合は、相続放棄の申述前に対策を講じるのが重要です。具体的には、熟慮期間の伸長を申立てて調査期間を確保し、利益相反が生じる可能性があるなら事前に特別代理人を選任することです。
取り消せるかもしれないと考えて安易に申述せず、慎重に判断しましょう。それが本人の利益を守るうえで、とても大切です。

成年後見人による相続放棄は、通常の相続放棄と異なります。利益相反の確認や家庭裁判所への各種対応など、判断が必要な場面が多くなるからです。
このような手続きに不安が残る場合は、一人で抱え込まず、まずは専門家への相談を検討しましょう。
例えば司法書士や弁護士への相談により、利益相反の有無の確認や特別代理人の選任申立て、裁判所への報告書の作成など複雑な手続きをスムーズに進めることができます。
特に期限が迫っている場合は、早めに動くことで、本人の利益を守ることにもつながります。また、こうした手続きを進めるうえで、専門家との連絡手段を確保しておくことも重要です。
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